インターネットは言葉をどう変えたか

インターネットは言葉をどう変えたか デジタル時代の言語地図 Because Internet: Understanding the New Rules of Language [[ グレッチェン・マカロック ]] Gertchen McCulloch フィルムアート社, 2021 駒場図書館で貸出


[[ 言語学 ]]者がインターネット上のやりとり(メール、SNS、ソーシャルメディア)について、実際の投稿を引用しながら考察する。対象は「言語っぽい」話題(文法とか話法とか)に限らず、それをつつみこむインターフェースや、絵文字にも及ぶ。例示される投稿は英語圏のものがほとんどだが、言及されている現象に対してはあきれるぐらい共感してしまう。

以下引用とメモ。

確かに、現代の言語学はその先へと進み、現代の分掌マニュアルは少なからぬ熱狂をもって、ラテン語化という分厚いメッキを剥がしつつある。その一方で、新たな形の言語的な権力者が、わたしたちのデジタル機器上に姿を現わした。スペルチェック、文法チェック、オートコンプリート、音声文字起こし……。こうしたツールは、どこかの誰かが考える英語の規則を、問答無用でわたしたちに押し付けてくる。

  • IME

赤い波線が文章をかいたそばから表示されるのは、…書き手を全体的な流れから引きずりだし、あまりにも早い段階で、細部へと意識をむけさせてしまうという悪影響もあるのだ。

  • 口調のタイポグラフィ
    • ピリオドによる重み、大文字表記による叫び・強調の表現
    • 日本語では構文
      • 「おじさん構文」
  • タイピングがうまいと、丁寧な単語を打つことにリソースを割けるようになる

p169

オフラインの権力関係と同じで、有力なウィキペディア管理者や「ランク」が高いスタック・エクスチェンジのユーザーほど、一般のユーザーと比べて無礼な傾向があった。

感嘆符は、単なる興奮ではなく、温かさや真心を示すために使われることがよくある。…司書のキャロル・ワゼレスキーによる2006年の調査で、メール内の感嘆符が興奮の意味で使われるケースは少なく、全体の9.5%しかないことがわかった。…32%は親しみを表していて、29.5%は事実の強調だった。

  • 興奮:「クソが!」「ふざけんな!」とか
  • 親しみ:「よろしくね!」「じゃあまた今度!」とか
  • 事実の強調:「まだ間に合います!」とか

  • メタコメンタリー
  • 「ハッシュタグなになに」と声に出す
    • “〜、period” とか “quote-unquote (いわゆる)” との関連
  • 日本語で、語末のチルダ(〜)をつけると「かわいい響き、遊び心」になる

  • 絵文字とインターネット・ジェスチャー
  • 言語学的なジェスチャーの定義、ジェスチャーとしての絵文字
  • ジェスチャー
    • エンブレム:命名可能なもの。言語の構造によく納まる。厳密な形(かたち)を意味が安定している。ウインク、thumbs up、バナナ(意味深)など。「この店どう?」「:thumbs_up:」は自然なやりとり。
    • 図解的ジェスチャー(illustrative gesture; 発話に伴うジェスチャー co-speech gesture):一般的すぎて命名できないもの。エンブレムに比べて柔軟性があり、形が定まっていない。言語の補足的に使われる。「こんなにデカイ魚」の「こんなに」でやるようなジェスチャーなど。「誕生日」を表現する絵文字はケーキとか、チョコレートとか、クラッカーとか、いろいろある。
  • 図解的な絵文字は組み合わせられるが、エンブレムはそれぞれが意味を持つので組み合わせられない(繰り返されはする)
  • GIFもエンブレムとして使われる
    • 切り貼りされたホモビは?語録は?
  • 絵文字
  • 顔文字:打てない
  • GIF:複雑すぎる、多すぎる、デカすぎる
  • Misskeyの小さいアニメーション付きの絵文字は?
  • 絵文字は丹念に計画された、意図を伴う出力であり、感情をそのまま反映するものではない

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あるスレッドの最後の投稿に「いいね!」をすることで、相手のメッセージを見たということ、そしてもう何も言うことはないということを伝えるわけだ。

「ディープ・ライク」とは、誰かのずっと前の投稿をたまたま(?)「いいね!」してしまう行為を指す。まるで昔の投稿をほじくり返しているみたいで、気味悪がられてしまうこともある。

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絵文字が成功したのは、絵文字が言語だからではなく、むしろ言語ではないからだ。絵文字は、言語の縄張りで言語と戦おうとするのではなく、まったく別の層の意味を表現するためのまったく新しい表記を補った。個々の音を表現する方法は、文字という形ですでに存在していたし、口調を表現するためのシステムは、前章でお話したとおり、既存の句読記号や大文字表記を使って発展しつづけている。その点、絵文字などの画像要素は、コミュニケーションの第3の重要な柱を満たしているといえる。それは、わたしたちのジェスチャーや物理的空間を表現する方法だ。

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言語学者のアラン・メトカーフは、大学卒業直後の若者からこんな説明を受けたという。「話し言葉では、ほとんど毎回『hey』といいますね。ただ、書き言葉では『hi』から『hey』まで柔軟に変化させます。いわば、挨拶に3段階の丁寧さがあるんです。…」

  • 書き言葉の解釈・生成には、時間的余裕があるので、瞬発力を言い訳にして丁寧な表現から逃げられない。その一方で、見た目や振る舞いを見て相手から手がかりを得られないので、表現を選びにくい。
  • 「挨拶というのは総じて交感的な性質」
  • 昔のTwitterのUI?
    • “status”ならば、最初のだけが見られればいいはず
      • [[ pplog ]]?
  • サードプレイスとしてのSNS
    • ビリヤード
    • 啓蒙時代のコーヒーハウス
    • チャットはステータスメッセージによってサードプレイスの性質を帯びた
      • 特定の相手と話すためでなくても、開くようになった
    • 繰り返しの偶発的交流
      • 人間関係の構築に役立つ
      • 自宅(=プライベート)・職場(First, Second place)への招待・接続
  • ブロガーは全体の5-8%
  • コミュニティに参加しているのは1-10%
    • ほんまか?

名目上は活動の内容が目当てで参加している。でも、何回か通い続けるうちに、お互いに顔なじみになり、一部の人と特に仲良くなって、堅苦しい話題だけでなく私生活の話をしたり、プライベートで遊ぶ計画を立てたりするようになる。

  • TN,FF
  • 人間中心のプラットフォームから入り、トピック中心に移行して、新しい友だちをつくる(→人間中心への回帰?)
    • オフラインに遊び場のないティーンエイジャー(→3章)
  • プライバシーは、技術的にセキュアだから保護されているのではなく、誰もそれを漁ろうとしないから(無名だから)実質的に保護されている
    • 裏をかいたのがOSINT
    • 公開されているが無名
  • 制約
    • オフライン空間では、場所(部屋や距離)による制約が作れる
    • オンラインでは制約を人為的に作り出す必要がある
      • 内輪ネタ、ミーム
      • subtweeting, vaguebooking: 意味深な投稿

        中国の反体制派は、語呂合わせを使うことで特に有名だ。たとえば、「調和」を表す標準中国語の「和諧」の代わりに、音が同じで声調だけが異なる「河蟹」と書くことがある。というのも、 「和諧」という単語は、中国語で「検閲」の婉曲表現であり、「和諧社会」を目指す2004年に提起された表向きの目標に由来するのだ。

バーテンダーやバリスタは、ふつうは客たちの会話を邪魔しないけれど、ほかの客の迷惑になっている人々を追い出す権利をもっている。そのことが、店全体をよりよい雰囲気にするのだ。

  • 白熱した議論においては、誰かが必ずナチスにたとえて相手を批判する、という「ゴドウィンの法則」をでっち上げてナチスへの比喩をする投稿にばら撒くと、勝手に法則が広まった

一方で、濃密な参照の数々を作成するのは、あるいは参照元を見て理解するのは、純粋な喜びでもある。…ミームの魅力とは、自分が部内者たちのコミュニティに属しているという感覚にこそあるのだ。

  • Can I haz cheezburger? でのロルキャット語の会話
  • 2016大統領選、カエルのぺぺ

学生たちは、大学専用のフェイス・ページで、学生仲間と絆を築く手段として、または入学前に友だちを作る手段として、ミームの作成や共有に励んでいたのだ。入学希望者の中には、大学のミームの質で、その大学に進学するかどうかを判断するものもいるほどだった。

印刷機、カメラ、コピー機によって、忠実な複製が実現する前の時代までさかのぼると、伝達という行為はすべて再創造にすぎなかった。

  • faxlore, xeroxlore :FAXとコピー機を通じたリミックス
    • blinkenlights

皮肉のタイポグラフィが誠実さの息づく余地を生み出すのと同じように、冗談もまた、文化的な空間に対する権利の主張を意味する。仲間内の冗談に笑うのは、「わたしもそのときここにいたんだ」と言うのと同じことだ。…

ミームは、言語的な仲間獲得のツールにもないうる。部外者は、そのミームを理解できる仲間集団の一員になりたいと思う。…ジョークやミームを説明してもなんの意味もないのも、同じ理由からだ。説明なしで「理解」できるというのが、ジョークやミームの存在意義だからだ。

  • 「説明」によって構成要素に還元してしまうと、全体がもつ性質(おもしろさ)が見えなくなる

ミームは、人々の積極的な参加が必須条件なので、「一見すると未完成で、粗雑で、素人っぽく、奇妙な動画のほうが、人々にその穴を埋めたり、難問を解決したり、製作者を模倣したりするよう促す効果が高い」わけだ。

  • 失敗しても痛くも痒くもない

著作権の概念が現代的な形へ進化したのは、印刷機の発明によってコピーが簡単にできるようになってから数世紀後のことだ。つまり、コピーを抑止する権利よりも、原作を改変する権利のほうが、存在していた機関としては長いわけだ。

  • クロスワードパズルの想定する文化的知識
    • 大人になると知らないうちにヒントがりかいできるようになった

子どもたちも、やがては成人し、職につき、多少なりとも自分に合った社会的な居場所を見つけ、こんどは自分が次世代への愚痴をこぼすようになる。中学校なんて、全員にとって異常な時代だ。

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