香港を知るための60章

[[ 吉川雅之 ]]

とあるプログラムに提出した事前レポート。


まず第Ⅲセクション「経済と社会」について述べる。返還時に約束された「一国二制度」は中国側の英国側に対する単なる譲歩ではなく、むしろ人民元の国際化や投資を受け入れる踏み台に香港を活用する手段であることに個人的に興味を持った。第19章で大陸の富裕層が香港の不動産市場に参入していると知って、昨年の夏カナダ西部のブリティッシュ・コロンビア州に数週間留学したときのことを思い出した。週末に州都であるバンクーバーに向かうときの車内で、ホストファミリーが「ビルがたくさん建っているでしょ。あのあたりにはオフィスビルと住居ビルがあって、両方を中国人が買い占めて価格が何倍にもなっているのよ。でも(投資を目的に)買うだけで誰も住んでないの。」と不満を漏らしていた。道端で不動産情報が載っているフリーペーパーを何度か見つけたが、そのほとんどは記事が中国語で書かれていた。これと香港の例から、民族的に同じかそうでないかにかかわらず外部からの不動産投資は住民の反感を買いやすいのだと知った。香港の家庭について述べた第25章には、親は子供とより長く接することではなく教育投資をすることによって愛情表現を行うとある。私の実家は共働き家庭であり、現にこのようなプログラムに参加させてくれているという面では香港的といえるかもしれない。しかし日本では外国人の使用人がいる一般家庭はまず存在しない。第25章では家事のやり方や食文化が伝承されないと述べられているが、そもそも使用人はどこで誰から料理を学ぶのか気になった。インドネシアの場合は使用人の訓練所がありそこで言語や家事を学ぶ。訓練や渡航にかかった費用は仲介企業に肩代わりしてもらい、後に香港で働きながら返すという形になっているそうだ。日本でも共働き家庭が主流になり、少子化により移民をより多く受け入れることが検討されている。とはいえ、香港のように使用人が日本の家庭にも盛んに導入されるようになるかはわからない。家族でない人が一年中同じ家にいて勉強や日常生活の面倒を見てもらうということ自体がうまくイメージできなかった。

次に第Ⅴセクション「メディア・教育・言語」について述べる。公立の小学校・中学校で教育を受けてきた身として、第40章の「有名小学への進学」という言葉に目を疑ってしまった。厳しい大学入試事情や痛ましい自殺について読み、勉学に真面目というわけではないが、選別される側の年代として少し恐れを覚えた。高校にあたる課程での必須教科が中国語・英語・数学・通識教育の4科目だけであることも新鮮だった。大学入学以外の台湾・大陸留学、副学士といった幅広い進路に対応するためにこうなっているのかもしれないと考えた。

最後に第Ⅵセクション「文化」について述べる。第60章で日本のサブカルチャーが香港に輸出されていると述べられている。バーチャル世界といえば、ここ数年VR機器を用いて3Dのキャラクターが自ら話しているように見える動画を作成及び公開する「バーチャルYoutuber」が流行している。中国語圏の動画サイトにおいて検索してみると「バーチャルYoutuber」らの動画が字幕付きで多数転載され、その領域に独特な言葉のいくつかはすでに中国語に翻訳されインターネットユーザの間で用いられていることがわかる。香港発を自称するキャラクターの動画もアップロードされている。それに対して、英語圏の動画サイトではそういったキャラクターはほとんど見られない。これまでに日本から輸出された文化は各地の言語や習慣の影響を受けながらそれぞれ進化していると考えられ、実際香港に加え台湾や上海で制作されたオタク的ゲームが日本で着実にファンを獲得している。そういった流行の背景には東アジアにおける共通した文化基盤があるという考え方は腑に落ちた。

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